母のまち



母が生まれて育ったのは私が働いている会社から歩いてゆけるくらいの場所だ。
6畳一間ほどの小さいうちに家族4人で住んでいた。
陽がまったく差し込まない部屋だったらしい。床下が湿っていて、母は子供の頃からずっと、とてもからだが弱かった。

一度母が住んでいた場所を見に行ったことがあった。
その時には空き地になっていたのだけれど、ここにほんとうにうちが建っていたの?と疑いたくなるくらいにちいさな土地だった。
トイレとかお風呂とか台所とか、そんなものをあの中に入れたらたたみ1畳分くらいしか余らないんじゃないだろうか。
建物がたっていない土地はほんとう以上に狭く見えるものだとわかっているけれど、猫のひたいってこのことだ、と思うくらい。


品川からほんの少し歩いただけなのに、懐かしい下町のにおいがした。
ごちゃごちゃとした商店街や、ハンガーのかかった裏道、蔦に覆われた民家。
(でも母に言わせれば昔はもっと商店街は整然としていたらしい)


なんだかすごく変な気持ちになって気になって足を止めた場所。
東海道の跡地だった。