* でもまだ指先のさき、夢がまざる



なんだか、もう少しな気がする。
ジャンプしたその先に海が見えているみたいに。
そんなに遠回りしていないぞという期待はまたきっとあっさりと裏切られるのだろうけど。

よく見上げていた鳥の巣がすっかりなくなっていた。
あんな高さのものを人間が取り去るわけもないから、きっと材料は使いまわすんだね。
知らなかった。

内田百けんの夢ばっかり集のようなものを読んでいる。
今日はものすごく眠たい一日で、横浜へのリハーサルに向かう2時間の電車、行きも帰りもぐうぐう眠って、夕飯の時もあたまの片隅が眠っていた。
内田百けんの書く夢の時間を飛び越える描写とか独特の音をたてる空気の重みとか、そんなものが私の眠りと交ざる。
疲労の膜のようなものがずっと頭の上から2割くらいのところを覆っている。
けれど不快じゃない。
深酔いの子守歌のようだ。
無防備だなと思う。
けれどこころにもすりガラスのような覆いがかかっているから大丈夫。
何度も乗り越しそうになる。

ああ、昨日のヤン・ファーブルの疲れかもしれない。
あれからずっとどこかが鋭くどこかが鈍い。


スペースシャトルが落っこちてくる夢をみたのはいつのことだっけな。
私は大きな白いベッドに寝ている。
手足をおおきく広げてもまだ余る、お日さまの匂いのするベッド。
高い天井に大きなガラス窓があって、よく晴れた青くて澄んだ空に小さなからまったみたいな雲が静かに浮かんでいる。
うとうとして、その青を浴びている。
でも眠らずにいた。
空がきらっと光ったかと思ったら次の瞬間には地響きがしていた。
音を聞きながら、一瞬目に入れた、ベランダの窓を通り過ぎていったスペースシャトルの詳細を思い出す。

内田百けんの夢とは全然感触が違うのだけれど。


内田百けん ちくま日本文学1